医薬品情報のバリアフリーを目指して
薬剤師 斉藤典子

 ある真夜中、突然の停電です。その時、急に腹痛が起きました。あなたは常備の胃腸薬をちゃんと服薬情報どおりに飲めますか?

 患者として行った病院で薬を待っている時にたまたま視覚障害者の方が薬の説明を受けていました。「この白い薬を・・・」 「?」
 日頃から障害者に接する事の少ない人にとって突然のコミュニケーションは取り難いのが現状です。この経験と、たまたま新聞で見つけた点字の通信講座が結びついて、今の医薬情報の点訳活動に取り組む事になりました。
 現在ではコンピューターと点字プリンターによる点訳が主流となっています。その事で手打ちやライトブレーラー打ちだけの頃と違い、正確性・量産の必要な医薬情報の点訳が可能となりました。また作業の負担が軽くなった事とインターネットの利用で無理なくボランティア活動を続ける事が出来ています。

 医薬品・服薬指導に点字表示を行うにあたって留意すべき点がいくつか有ります。
1:薬の名前は多種多様で複雑なものが多く、とっさに点字で読むと判別がつき難い。そこで薬にはいくつか作用が有るが、その時の患者に合った効果をその場で薬剤師に表記してもらった方が後に間違いが少ない。

2:薬の説明にあたっては晴眼者と違い、一瞬にして視覚で欲しい情報を選ぶ事が出来ないため、かな文字である点字で表された場合、必要な部分を知るためにかなりの量を読まなければならない。瞬時に必要な情報が得られる様、大事な部分だけの出来るだけ簡易な言葉で表して欲しい。

3:ただ点字を貼れば良いものでは無い。やはり医療関係者と障害者とのコミュニケー ションがとれてこそ、正確に医薬情報が伝わり安全に薬が飲める。

4:医薬情報は障害者如何に関わらず公平にかつ正確になされるべきであり、そのためにも医薬関係者に負担がかからぬよう、ローコスト・取り扱い易さ・点字を知らなくても正確に表記できる・どの種類の薬袋にも貼れる事が重要となる。

 以上の事から表裏印刷可能な透明なタックシールを使う事を推奨します。

 ここで、医薬品に点字表記がなされたと仮定した上で現在の視覚障害者の実態です。と言うのも点字は確かに視覚障害者にとって大変有益なものですが、点字の読める方は極度に少ないのが現状です。視覚障害者の老齢化、中途失明者の増加、弱視者、その他晴眼者でも老齢になるに従い文字表記は読みづらくなります。また、非常時(停電、煙など)に至っては健常者も障害者も関係なく視覚に頼らずに薬を飲まなければならない場面も出てきます。その対策が強く望まれています。ここでその対策について少々ご紹介いたします。

1:効能別の薬箱・薬シートの色分け

2:晴眼者でも点の区別のつく拡大点字(約 1.5 倍)を用いてマーキングする。その他、 世界共通のマークを印刻する。

3:簡略化した服薬指導書、およびその拡大文字版の作成。

4:製剤そのものへのわかりやすい表示

5:錠剤の大きさの制限:小さいと取り扱いが難しい(調剤時の誤差にも有効)

 以上の事に加え、やはり医薬関係者と患者さんとのコミュニケーションがとれていないと様々な問題が起きます。特に障害者の場合、プライバシーの問題なども存在し、行政からの一方的なサービスは浸透しにくいです。日頃から一番障害者に近い存在であるボランティア活動者との連携が有効と考えられます。これは災害時にも大変有効ですので是非ご協力頂きたいところです。 また、 マーキングなどは混乱を避けるためにも全国規模の取り組みが必要となります。日本が世界を先導して誰もが安全に服薬出来るよう、製薬会社一帯となった取り組みを望みます。


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