11 蛋白(たんぱく)合成阻害〜抗生物質の作用機序

1992年月1日号 (No.110)に掲載

「人は何のために生きるのか?」哲学者ならずとも、皆さんもこんな疑問を抱かれたことがあるのではないでしょうか?
まあ、「一晩考えたぐらいでは、凡人には分かるはずも無い」と大抵の方は途中であきらめてしまわれるようです。

生物学上では、とっくにこの答えは出ています。人を含めて動物はたんぱく質を作るために生きているのです。それも自己固有のたんぱく質を作り続けるためにです。逆にいうと、動物は自己固有のたんぱく質を作り続けないと生きていけないのです。

抗生物質とは、生物に抗(あらが)う物質のことで、つまりは自分以外のものを殺してしまう物質です。これはすでにご存知のように、カビが自分の縄張り(生活圏)を広げるために、他の最近を殺してしまう武器とも言えるものです。ですから多くの抗生物質が蛋白合成阻害作用を持っています。

他の最近が死んで、そして自分自身も死んでしまったら何にもなりませんから、自分は死なないような仕掛をすべての細菌は持っています。その仕掛けは様々でDNAやRNAといった核酸の合成を阻害するものや、たんぱく合成の場であるリボゾームの機能を阻害するものなどです。その仕掛けをうまく利用して細菌だけ殺せて人間には害の無い様にしたものが、薬としての抗生物質です。

これらたんぱく合成阻害の抗生物質は抗癌剤としても使用されていますが、問題になるのはやはり副作用です。なぜなら癌細胞は元々自分の細胞であったため、正常細胞との差が少ないからです。癌細胞を殺すために、正常な細胞も傷つけてしまうのを覚悟しなくてはなりません。

「人は何のために生きるか」と考えて苦しむ人は、「どのように人生を楽しむか」を考えている人よりも何倍も癌に成り易いそうなので、あまり深く考えないようにしましょう。


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